Googleを始めとして、ネットで「染み抜き」と検索すると、主に上位に表示されるのは、家庭や自分で出来るシミ抜き方法の記事です。
これは検索エンジンが、検索した人の求めているもしくは役に立つと思われるものを検索結果として表示するからです。
実際のところ、衣類に付いたシミを家庭で自己染み抜きして何とかしたいというニーズは一定数あるのは事実です。
染み抜きの専門店である当店にも、メールやLINEなどで家庭で出来るシミ抜き方法を聞かれることがたまにあります。
ですが、当店では基本的に家庭で出来る自己染み抜きの方法はお教えしておりません。
家庭染み抜きの方法の記事は、アクセスを稼ぐことしか考えていない
ネットで染み抜きで検索して上位に表示される、家庭や自分で出来るシミ抜き方法の記事は、検索エンジンに評価されて上位表示し、その記事へのアクセス(閲覧)数を稼ぐことを目的にしています。
ですので、染み抜きのプロである私がその内容を観てみると、よくこんな無茶な方法を記事にしているな・・・と感じる記事も中にはあります。
例えば、着物を染み抜きする方法で上位に表示されているサイトの記事では、着物に付いたあらゆるシミを自己染み抜きする方法が紹介されていますが、多くの着物の生地に使われている繊維である絹(シルク)は、水に濡れた状態で擦るといとも簡単にスレ(毛羽立ち)を起こしますし、そのような状態になった生地は、シミのように落とせば済む場合と違い、繊維が物理的に変化してしまっているので、二度と元の状態に戻すことは出来ません。
また、着物やシルクの衣類に洗剤や漂白剤を付けて水を使うと、染色の脱色や変色が起こるリスクが高くなります。
小さな脱色や変色であれば、プロによる色修正で元に戻せる場合もありますが、大きな脱色や変色の場合、最大限修正したとしても、完全に元の状態に戻すのは極めて難しくなります。
染み抜きというのは、三百年ほど前に朝廷の公家などの礼装の着物のお手入れをするための御用職人の技術から始まっています。
その頃から、染み抜きというものは技術を持ったものが行う作業であったということです。
染み抜きとクリーニングの全ての国家資格を保有する専門家の私の意見といたしましては、家庭で染み抜きをするなとは申しませんが、経験を積んだプロでも気を抜くと事故が発生する染み抜きというものを自身で行うにあたっては、自己責任ということを肝に銘じていただき、くれぐれも大事な着物や洋服を自己染み抜きすることは避けていただき、最悪失敗しても良いぐらいの気持ちになれる衣類だけにしていただきたいです。
染み抜きはどこまでなら家庭でしても大丈夫なのか?
とは言っても、やはり自己流の染み抜きをしたいと思う人は結構いますので、どこまでやっても良いのか?どこからはプロに任せた方が良いのか?を、染み抜きの専門家が解説しますので、参考になさってください。
衣類の素材別の家庭染み抜きの可否と危険性
衣類の繊維によって、染み抜きで失敗しやすいものと比較的そうでない物があります。
かなりざっくりとした分類になりますが、参考程度にお伝えさせていただきます。
綿
繊維の中でも一番丈夫な生地。脱色や変色も起こりにくいが、インポートブランドの衣類は極端に染色が弱い物もあるので注意。
麻
綿と同様に丈夫な生地ではあるが、脱色はしやすい傾向があるので、無理は禁物。特に麻によくある生成り色は、染み抜きで色が抜けやすい。
ウール・カシミヤなど
動物性の繊維なので、アルカリ性の洗剤などで染み抜きを行うと、脱色や最悪の場合は繊維が溶けて脆化することがある。プロでもあまり無理が出来ない素材。
ポリエステル
繊維も染色も丈夫な物がほとんどなので、染み抜きで事故が起こる確率は低いが、粗悪な染色の製品も中にはあり、染み抜きや洗いで極端な色落ちが起こる場合がある。また、天然繊維に比べて熱には弱いので、熱のかけすぎには注意(溶ける)
アセテート・トリアセテート
繊維の中でもかなり弱い部類の物で、薬品と熱のどちらにも弱め。洗濯表示の繊維の種類の中にアセテートやトリアセテートが含まれていたら、自己染み抜きは行わないのが無難。
レーヨン
繊維自体はそれほど弱いわけではないが、染色は弱い物が多い。また、水に濡れると縮みが出やすいので、その点も注意が必要。
絹(シルク)
薬品に対しては比較的強い繊維ではあるが、染色は弱い物も多い。また、湿った状態での摩擦に非常に弱く、水濡れした状態で擦るとスレ(毛羽立ち)が起き、角度を変えて見ると真っ白に見える状態になる。
繊維の種類 | 自己染み抜きの可否 |
---|---|
綿 | ◯ |
麻 | ◯ |
ウールなど毛類 | △ |
ポリエステル | ◯ |
アセテート系 | ✕ |
レーヨン | △ |
絹(シルク) | △ |
シミの種類別の染み抜きの可否
シミの種類によって、家庭で出来る可能性がある物と絶対に自己染み抜きしない方が良いものがあります。
大まかに分類してお伝えさせていただきます。
食べこぼし
付いてすぐの食べこぼしのシミは、比較的落ちやすいシミです。ですが、家庭での染み抜きで色素を落とすのは非常に困難なので、汚れを落としてシミの色が残った場合は、無理をせずにプロに任せましょう。
飲みこぼし
飲み物のシミも、食べ物のシミと同様に色素が残った場合は無理をせずにプロに任せた方が無難です。特に赤ワインや果実のジュースのシミなどは、残った色素はプロでないと落とすのは困難です。
汗
汗のシミは水溶性ですので、変色していなければ水を使って落とすことは可能です。ただし、擦ってスレや脱色が起こるような生地は不可です。
血液
付いてそれほど時間が経っていない場合、適した洗剤やシミ抜き剤を使えば落とすことは可能です。ただし、たっぷりの水を使って洗い流す必要があるので、水洗いが出来る生地に付いた場合に限ります。
接着剤・樹脂
接着剤などの樹脂のシミは、家庭でのシミ抜きはほぼ出来ないと考えてください(特に瞬間接着剤の類)これらのシミは、プロでも落とすのが非常に困難なシミであり、落とせる薬品は、繊維によっては溶かしてしまうことがあります。
口紅・ファンデーション
これらのシミは、油脂を溶かす洗剤や薬品で落とせるので、ベンジンやクレンジングオイルなどで落とせる可能性があります。ただ、ベンジンは非常に引火性が高いので、発火などの事故が起こるリスクがありますし、クレンジングオイルを使った場合は、水洗いが必要になります。
シミの種類 | 自己染み抜きの可否 |
---|---|
食べこぼし | ◯(色素が残る物は✕) |
飲みこぼし | ◯(色素が残る物は✕) |
汗 | △ |
血液 | △ |
接着剤・樹脂 | ✕ |
口紅・化粧類 | △ |
かなり大まかな分類ですが、自己染み抜きが可能・不可能なシミと繊維の種類をお伝えさせていただきました。
冒頭でお話したように、検索で上位に表示されている自分で出来るシミ抜き方法のほとんどは、アクセスを稼ぐためだけに作られた記事であり、もしその方法を用いてシミ抜きをして事故やトラブルが起こっても、一切の責任は負ってくれません。
大切なお着物やお洋服に自己染み抜きを行って、二度と着られない状態になったりしないように、くれぐれもお気をつけください。