総絞りという染めの技法があるのですが、絞りのお着物は正直なところ通常の染めの着物に比べて染み抜きが難しい場合も多く、着物クリーニングや染み抜きの専門を謳うお店であっても、染み抜き困難で断られてしまうことが多いお着物です。
もちろん、なをし屋でもどうしてもお断りせざるを得ない場合もございまして、年に一点ほどは修復困難の診断をさせていただくことがある、比較的染み抜き難易度の高いお着物です。
絞りの着物の染み抜き難易度が高い理由とは?
絞りの柄の着物がなぜ染み抜きが難しく、他店様で断られることが多いのか?
それにはいくつかの理由があるのですが、まず一つに、特殊な染めであるが故に、生地に特徴的なシボと呼ばれる凹凸があることが挙げられます。
このシボですが、生地を糸で絞って染めた際に付いた生地へのシワのような物です(シワと言ったら絞り染めのメーカーさんにおこられそうですが)
描いたり染めたりした柄ではなく、生地に付いたシワのような物ですから、アイロンで伸ばしたりすれば、当然伸びてしまいます。
絞りの生地に熱い蒸気アイロンを当てて伸ばすことはしませんが、染み抜きを行う際には、水と熱が必要になってきますので、染み抜きを行った箇所はどうしても若干の生地の伸びもしくは縮みが起きてしまいます。
ですので、絞りの生地によっては、染み抜き作業で仕立てのバランスが崩れてしまうほどに伸びたりしてしまう物もあるので、そのような生地の場合、染み抜き作業そのものが難しくなります。
絞り染めには、本物と偽物がある
余談ですが、絞りには本物とニセモノがあるのをご存知でしょうか?
絞りは絞り染めと言われるように、生地を糸で括って絞った状態で染めます。
ところが、今はあまり見かけませんが、過去のある時代に、前もって染めた生地を後から糸で括って、絞りで染めたような凹凸を付けた、言わばニセモノの絞り染めの商品が作られていました。
その加工は、正式な名称かどうかは分かりませんが、業界では「から絞り」と呼ばれていました。
このから絞りのお着物は、糸で括って軽く熱を加えた程度の絞りなので、本物の絞り染めの凹凸の比べて、いとも簡単にシボが伸びてしまうのです。
もし伸びてしまったら、再度糸で括ってシボを作るしかありませんので、そのようなから絞りのお着物は、物理的に染み抜きが困難な場合があります。
絞り染めの着物の染み抜きが難しいもう一つの理由、それは染めによる染料の定着度が低めの物があるということです。
絞り染めの方法の詳細はググっていただくとして、他の染めの着物と比べて特殊な染め方であるのは間違いありません。
その染めの特殊さが故になのか、濃い色(特に黒や赤)の絞りの柄を水で濡らしたりすると、絞りで染まらずに柄になった部分に、地の色が滲んでしまうリスクが非常に高くなります(普通の染めの物も黒や赤は色が滲みやすいのですが、絞りの物は特にそれが顕著です)
このような理由から、染み抜き作業が困難であるという診断をせざるを得ない場合が多いのが、絞り染めの着物です。
総絞りの着物の背中部分に、黄変したシミが付いております。
前述したように、絞りのお着物は染み抜きが困難な場合もあるのですが、こちらのお着物は、染み抜きテストの結果、色にじみなども起こさずに染み抜き出来ると判断しましたので、お引き受けさせていただきました。
極端な生地の伸びなどもなく、シミを落とすことが出来ました。
【参考価格】画像部分のシミの染み抜き 15,000円程度(税別)
(※注※染み抜きは生地の素材・色合い、シミの濃さなどによって金額が変わってきます。あくまで一例の参考価格としてお考えください。クリーニングその他加工は別途料金がかかります。)