七五三・お宮参りの着物のクリーニング・染み抜きについて
お子様用のお着物(七五三・お宮参りの着物)は、それをご着用されるイベントの時以外は箪笥の中などに何十年と保管されたままのことが多く、いざその時に使おうと思って保管場所から出してくると、保管中の湿気によるカビなどが原因で、全体に変色したシミだらけということが少なくありません。
ですが、子供用の着物(祝い着・産着)は、専門店でも修復困難で染み抜きを断られてしまうことが多いようです。
子供用の着物は、生地自体があまり丈夫でない場合が多い
実は、お子様用のお着物は生地自体の薄さなどから生地があまり丈夫でないことが非常に多く、変色したシミを染み抜きする場合、シミがかなり濃い場合などは、限界まで染み抜きを行ってもシミが落ち切らないことがあります。
生地があまり丈夫でない理由は、生地の元々の薄さによるところもあるのですが、もっと根本的な問題として、生地の繊維自体が大人用の一般的な着物とは違う素材を使って作られている場合もあります。
その生地はアセテートという合成繊維(厳密には、半合成繊維)なのですが、手触りなどが正絹(シルク)に近い状態を表現出来、染色も容易であったため、一昔前までは祝い着などに多く使われていました(洋服には今でも他の繊維との混紡品などが多く使われています)
このアセテートという繊維は化学繊維なのですが、非常に熱と化学薬品に弱い(繊維が変質しやすい)という性質があります。
着物の変色したシミを抜くには、しみ抜き剤(化学薬品)を塗布して、放置したり熱い水蒸気で反応させてシミを抜くという作業が必要なのですが、アセテートという繊維の場合、無理に熱を加えたり強い薬品を使うと、繊維が溶けて固くなったり穴があいてしまったりするので、使える薬品や作業方法が非常に限られているという、染み抜きにおいては大きな弱点があります。
ですので、正絹の着物と違い、アセテートで作られている祝い着は、変色したシミを抜きたくても、あまり無理が出来ないので、正絹の着物に比べて、シミの落ち具合はかなり下がってしまいます。
また、このアセテートという生地は、祝い着の裏地に使われていることが非常に多く(現在はポリエステルが主流)、表地の正絹の生地を染み抜きする場合に裏地にまでしみ抜き剤と熱が入ってしまうと、表は大丈夫でも裏地が溶けるということも起こるので、表地が正絹でも裏地がアセテートの場合、染み抜き作業に制約があります。
お子様用の着物(祝い着・七五三・お宮参り着物)は、染み抜き出来ない?
もちろん、全く何も出来ないということは稀ですし、日々染み抜きの研究を行い技術のアップデートを行っておりますので、その成果として現状よりもかなり見栄え良く直してご着用出来る状態に直せる場合がほとんどなのですが、大人用のお着物に比べると、先述した理由などでどうしてもスッキリと直せないこともあるのは事実です。
また、中に着るお襦袢ですが、これも長年保管されている間に全体的な黄ばみが出ていることが多いのですが、お襦袢の生地は着物よりもさらに生地が弱いので、染み抜き自体が難しい場合がほとんどです(上記のアセテートが多い)。ですので、お襦袢を綺麗にしたいとお考えの場合は、新しい生地をご用意させていただいて、同じサイズの物を誂え(新たに生地を裁断して縫製する)させていただくか、既製品(既に縫製してある状態)でサイズの近い物を手配させていただくご提案をさせていただいていおります。その場合、誂えの場合で三週間ほど、既製品で手配に一週間ほどいただいております。
染み抜き・クリーニングの料金についてですが、お子様用のお着物は大きさが小さいのですが、先述したように、保管中にシミが全体に拡がってシミの数がかなり多くなっている場合が多く、生地の繊細さによる染み抜きの難易度や作業箇所の多さなどから、少し高いとお感じになる見積りになるかもしれません。例えば、お着物の全体にシミがあって染み抜きとクリーニングをした場合、五万円くらいから状態によっては七万円くらいになる場合もございます。
もちろん、実際に拝見させていただいてからのお見積りになりますので、もっとお見積り金額がお安くなる場合も多いのですが、なをし屋の仕事は機械に入れてボタンを押せば良い仕事ではなく、私が手作業で一つ一つのシミを抜く手間賃仕事ですので、シミが多い=手作業の箇所が多い場合は、その手間に見合ったお見積り金額となることはご理解いただければと思います。
染み抜き作業でシミが残る場合や、生地の状態により積極的な染み抜き作業が出来ない場合などは、新たに金彩加工(金色や銀色の模様を施す)を全体のバランスを見ながら加えて、シミを視覚的に目立たなくする方法などもございますので、ご依頼者様のご希望を第一に考えながら、あらゆる可能性をご提案させていただきます。
七五三用やお宮参り用のお着物のお手入れをご相談いただく場合、ご自身やお子様などが着られた物を出来るだけ綺麗にしてお子様やお孫様に着せてあげたいという想いをお持ちになられているからこそ、なをし屋にご相談いただいていると思います。
ただ、私がこのようなことを言って良いのか分かりませんが、先述したようにお子様用のお着物は染み抜きの仕上がりに限界がありますので、時には、新たにお買い求めになるのも一つの選択肢であると思います。実際にご相談いただいた場合に、仕上がりが綺麗になりそうにない場合などは、そのようにお話させていただくこともあります。
なをし屋の仕事は着物をクリーニングして綺麗にすることですが、例え一銭の利益もないとしても、無理に加工をオススメするようなことはしたくないですし、しないと決めています。それが信念だからです。
着物にシミがあると、小物類にもシミがある場合がほとんど
七五三・お宮参りに使うお着物は、仕舞いっぱなしのことが多く、その間にシミがたくさん出てしまっていることが多いというのはお話ししましたが、同様に保管されている帯や小物類(帯揚げ・草履・バッグ・扇子など…)にもカビやシミが出てしまっていることは非常に多く、使われている素材によっては劣化している場合もあり、これらのお品物は染み抜きや修繕よりもセットで新たにお買い求めになられる方が良い場合もございます。
なをし屋では、京都に拠点を構えている利点を活かし、着物に関する様々な専門のお取引先様がございますので、七五三・お宮参りに使う小物類などもお手配させていただくことが可能です。
ご要望をお伺いしてからメーカーさんに発注するので、カタログを見てご注文いただく方法となりますが、豊富な品揃えからお選びいただけますので、お子様用の着物と同様に小物類にもシミが出ているということであれば、気兼ねなくご相談くださいませ。
お宮参り・七五三参りの由来と歴史
お宮参りや七五三のお参りは、現代では、赤ちゃんが生まれたから、子供がその年齢を迎えたから、という程度の認識でなされていることがほとんどではないかと思いますが、ここで、お宮参りと七五三のお参りの持つ本当の意味や歴史・由来などを簡潔にお話させていただきます。
お宮参りの意味と由来
お宮参りは、子供が生まれて一ヶ月後頃に、その土地の守り神である産土神(うぶすながみ)や氏神様へ参拝するのが通常の習わしとなっています。
諸説あるようですが、子供が無事生まれたという神様への報告と、生まれた子供が初めてその土地の神様へのご挨拶と対面を果たすということが本来の意味ですので、遠方の神社などに行くよりは、地元の神社などでお参りするのが正式なお宮参りの儀式になるそうです。
七五三参りの意味と由来
七五三参りは、今ではその年齢に達したからという理由でお参りされるのが一般的な認識になっているようですが、歴史を紐解いてみると、昔は子供の医療が発達していなかったので、「七歳までは神のうち」という言葉があったほどに、無事に大人になれずに亡くなってしまう子供が多かったので、節目の年齢ごとに、その年齢まで無事に育ったことへの神様への感謝と、これからも無事成長出来るように神様に祈りを捧げる、そんな意味があったそうです。
長い歴史の中で現代にも受け継がれて残っている、お宮参りと七五三のお参り。
同じお参りするなら、形だけではなく、その歴史や本来の意味や由来に思いを馳せながらお参りしたいものですね。