アンティーク着物・リサイクル着物購入時の注意点
一時のようなブームというほどの勢いではないようですが、アンティーク着物は若い方を中心に今でも根強い人気があるようです。
また、着物の買取りを謳うお店が増えたことで、リサイクル(中古)着物も数多く市場に流通しているようです。
そんなアンティーク着物とリサイクル着物ですが、名前は違っても、要は中古の着物ですので、着用時の汚れや保管中のカビなどのシミ(染み)が出ている物もあります。
特にアンティーク着物の類は、製造からかなりの年月が経っているのと、状態の良いものは過去のブームの時に市場にほぼ出尽くしているので、シミ(染み)などのトラブルが出ている物が非常に多いです。
※(変色していて染み抜きと色修正が必要なシミを、単なる汚れと区別するために染みという表現を用いています)
そんなアンティーク着物やリサイクル着物ですが、解いて端切れにして何かに使う場合は良いのですが、着物として着るために購入する場合は、注意して欲しいことがあります。
染み抜き専門店が教える、染み抜きで直せる・直せないアンティーク着物
お店で気に入ったアンティーク着物、シミ(染み)があるけど染み抜きに出して着れば良いか・・・とお考えになるかもしれません。
アンティーク着物は一期一会。二度と同じ物に巡り合うことはありませんから、気に入った物があれば即買いしたくなりますよね。
ですが、その前にぜひ、染み抜きを専門にしてきた、なをし屋の話を聞いてください。
着物には、染み抜きで直せる状態の物と直せない状態の物があるのです。
染み抜きでは直せない状態のアンティーク着物
アンティーク着物の場合、特に作られてからかなりの年月が経っていますので、シミ(染み)も変色してから何十年と経っているのが当たり前となります。
シミ(染み)が変色しているということは、生地に対してダメージを与え続けている年月が長いということですから、その蓄積したダメージによってシミ(染み)の部分の生地が劣化や脆化(もろくなること)が起きている可能性が非常高くなります。
そしてそれを一般の方が見た目で判断するのは非常に困難です。
生地が弱っていなければ全く何も出来ないということはないのですが、シミ(染み)は濃ければ濃いほど黄ばみなどが残りやすいので、アンティーク着物やリサイクル着物を購入する際は、付いているシミ(染み)が出来る限り濃くない物を選ぶ方が、染み抜きで着用出来る状態に直せる可能性が高くなります。
このように濃い変色シミ(染み)の場合、生地の状態を見定めながら最大限染み抜きしても、黄ばみなどが残ってしまうことが多いです。
必ずしもこれが基準というわけではありませんが、このぐらい濃くなると、完全に直すのは困難だと覚えておいていただければと思います。
染み抜きで抜けやすい地色の着物は要注意
シミ(染み)が薄かったとしても、変色したシミを染み抜きする際に地の色が抜けやすい・変化しやすい色目の物は選ばない方が無難です。
青系・緑系・紫系など、要は色目に青が使われている物は、変色シミの染み抜きの薬品でほぼ間違いなく色が抜けたり違う色に変化するので、染み抜き後に色修正を行っても、色ムラや違和感などが残りやすくなります。
上記のような青系の着物であっても、変色しているシミが小さければ、シミ(染み)を抜いた跡の色修正で着用に問題ない程度に直せる場合も多いのですが、変色染みは大きくなればなるほど、シミ(染み)抜いた跡の色修正の難易度が上がるので、綺麗に仕上げることが難しくなります。
ですので、青系のアンティーク・リサイクル着物で目立つ大きなシミ(染み)がある物は、染み抜きで着用に問題ない状態に直すのも難しい可能性があるので、購入を避けられた方が無難かと思います。
アンティーク着物の赤い裏地に注意
アンティーク着物の場合、このような赤い裏地が付いている物も多いかと思います。
この裏地の生地は「紅絹(もみ)」と呼ばれる生地で、紅花で鮮やかな赤一色の無地に染めています。
現在はこの紅絹を着物の裏地に使うことはまずありませんが、アンティークの着物にはこの紅絹が使われていることがよくあります。
紅絹はとても色落ちしやすい
この紅絹ですが、濡れると簡単に色落ちするので、この紅絹が裏地に使われているアンティーク着物を着ている時にたくさん汗をかいたりすると、裏地から表の着物地に紅絹の赤い色が移ってしまうことがよくあります。
紅絹から色移りすると、このような状態になります。
この紅絹からの色移り、絶対に落とせないというシミではありませんが、比較的落ちにくいシミですので、このような色移りが起きた場所を染み抜きすると、着物の地色も抜けてしまうリスクが高くなりますので、結果的に染み抜きした箇所が色ムラや違和感が残ってしまう可能性が高くなります。
(なをし屋は、紅絹からの色移りを落とすノウハウと色が抜けた跡の色修正の技術を持っておりますので、染み抜き可能です)
アンティーク着物は、生地そのものが劣化・脆化しているリスクが高い
変色したシミ(染み)の部分は生地が劣化・脆化している可能性が高いということは冒頭でもお話しましたが、アンティーク着物の場合、シミ(染み)がなくても生地そのものが劣化・脆化しているリスクが高くなります。
絹は天然繊維なのですが、年月と共に自然に生地の糸が弱っていきます。
博物館などで、数百年前の着物や生地類をご覧になったことがある方ならよくお分かりになるかと思うのですが、生地が劣化・脆化してボロボロになっている状態の展示物が多いかと思います。
経っている年月の長さは違っても、アンティーク着物も、作られてからの年月分は劣化・脆化が進行していると考えて間違いありません。
洗いで生地が破れるかもしれないリスク
アンティーク着物はサイズが小さい物が多いので、買ってから寸法を出して着ようとお考えの方もおられるかと思います。
ですが、寸法を出して仕立て直しをするために仕立てを解いて洗い張り(水洗い)を行うと、弱っていた生地が縦や横に裂けてしまうといったことが、頻繁ではありませんが、時々起こります。
この生地の弱りは、染みと違って見た目には判断がつかないことも多く、アンティーク着物を解いて洗い張りする場合は、ある意味一か八かの賭けのような加工となります。
そのあたりのことは、当店ですと予めリスクをご説明して最終的に生地が破損する可能性をご承知していただいての作業となりますが、通常のお着物よりも遥かにリスクが高い作業であるということは頭の片隅でも覚えておいていただければと思います。
着物の値段と染み抜きや各種加工の料金は比例しない
アンティーク着物にしてもリサイクル着物にしても、かなりの安値で販売されている物もあります。
特にアンティーク着物は、物によりますが、一枚500円とかで販売されている物もあります。
数百円とまではいかなくても、数千円ぐらいで着物を買われる方もおられると思います。
安く手に入れた着物に何らかの加工(染み抜きや部分的なほつれ直しなど)が必要な場合、そんなにお金をかけずに直したいとお考えになるかもしれません。
ですが、ここでしっかりとお伝えしたいのは、「染み抜きや各種加工の金額は、着物の価値とは何ら相関関係はない」ということです。
加工を承るお店は、行う作業の手間や難易度などによってその料金を定めていますので、その着物が数百円で購入した物でも、一千万円で購入した物でも、加工代金は変わりません。
ですので、お直しが必要なアンティーク・リサイクル着物を購入される時は、着物を購入した値段が安いからといっても加工代金が安くなることはない、むしろ難易度や手間の関係で相場よりも高くなる可能性もあるということを知っておいていただきたいのです。
アンティーク着物やリサイクル着物をご購入をお考えの場合は、出来る限り染み抜きや寸法直しが必要のない物を選んでいただき、加工が必要な物を購入される場合は、このようなリスクが伴っているということを覚えておいていただければと思います。