なをし屋は染み抜きを専門とする職人が代表を務めておりますが、シミ抜き作業は、洋服のシミ抜きであっても、京都で生まれてから約三百年前から脈々と受け継がれている、着物のお手入れのための伝統技術が基になっています。
ただ、着物のシミ抜き技術が基になっているとは言っても、三百年前の技術や薬剤などとはかなり違っている部分も多くあります。
着物は主に絹だが、洋服は様々な素材で作られている
絹だけではありませんが、着物の生地の主な素材は絹(シルク)ですので、着物のシミ抜き技術というのは、絹製品に対するお手入れ技術に特化しています。
一方で、洋服は糸の段階で様々な繊維が使われており、生地になる場合にも、単一の繊維ではなく混紡されて生地になっている物が多いので、そのあらゆる繊維に適したシミ抜き方法を用いる必要があります。
絹(シルク)は薬剤に比較的強い
実は、着物に主に使われている絹という繊維は、薬品に対しては比較的強い性質(薬品による化学反応で劣化しにくい)があるので、シミ抜き方法については、かなりの種類の薬剤や作業方法を用いることが可能です。
それに比べて、洋服というのは天然・化学両方の本当に様々な繊維を使って生地が作られています。
天然素材であれば、絹・木綿・麻・羊毛など、化学繊維であれば、ポリエステル・アセテート・レーヨン・ナイロンなど…
さらに、近年では指定外繊維という一般的な天然素材や化学繊維に分類されない比較的新しい繊維もあり、洋服のシミ抜きは、あらゆる繊維の知識がないとシミ抜き作業が出来ないということがご理解いただけるかと思います。
そして、その様々な繊維に対して絹と同じように薬剤を使ってシミ抜きを行うと、繊維が溶けて生地に穴が開いたり生地が固くなって元に戻らないような事故が起こることがあります。
繊維によって色修正の染料や方法が変わる
また、シミ抜きを行うと生地の色が抜けたり、元々変色していた部分は染料によって色を挿して元に戻さないとならないため、色修正が必要となる場合が多いのですが、着物の色修正の場合、絹であれば染料の種類は酸性染料というほぼ一種類の染料だけで済むのですが、洋服で様々な繊維が混紡されている場合などは、色修正の染料もそのあたりを踏まえて選択する必要があります。
また、絹の着物は解いて洗い張りをする場合以外は全体を水洗いしませんが、洋服は水洗い出来る物の場合も多く、水洗いで色修正した箇所が影響で受けないかどうかなども考えて色修正を行う必要があります。
洋服は、特殊な染色の物も多い
着物は、染めの種類は昔ながらの物がほとんどなので、あまり知られていない染色方法というのは基本的にはないのですが、洋服の場合、新しい染色方法や染料が使われていることもあるので、着物と同じ感覚でシミ抜きを行って、生地の色が激しく抜けてしまってトラブルになるということもあります。
それを防ぐには、まずは洋服の洗濯表示をしっかりと確認して、着用に問題ない箇所でシミ抜きテストを行ってから本番のシミ抜きを行うのが肝心です。
シミ抜きは着物に始まり洋服で進化してきた
最初にお話したように、シミ抜きの技術は着物のお手入れ技術から始まっているのですが、その後我が国の服飾文化が和装から洋装へと大きく変化した結果、メンテナンスやシミ抜きにおいても、洋服へ対応するために、様々な洗浄方法や生地・繊維・染色方法に応じた技術が研究されてきました。
なをし屋代表の栗田も、父親の元に修業に入ってしばらくは着物のお手入れだけを学んでいましたが、洋服のメンテナンスに対応するために、色んな人に教えを請うたり、独自に研究などをしてきました。
着物のお手入れを生業とする職人さんの中には、洋服のメンテナンス全般を下に見ている人もいるようですが、進化がほぼ止まっている着物のお手入れ方法と比べて、洋服の洗いやシミ抜き方法は、今日も進化し続けているということは言っておきたいと思います。
また、正直ちょっと理解に苦しむ法律ではあるのですが、洋服類のシミ抜きを請け負って金銭を頂く場合、クリーニング師の免許とクリーニング所としての届け出が必要になっており、それらをせずに洋服のシミ抜きなどを請け負っていると、行政からの指導が入ります。
(もちろん、なをし屋はクリーニング所の届け出をしておりますし、代表の栗田裕史はクリーニング師の免許保持者です)
なをし屋では、着物のお手入れ方法と洋服のメンテナンス方法の両方の良いところを組み合わせた独自のシミ抜き技術でお手入れしておりますので、着物と洋服どちらか一方のお手入れを学んだ職人さんよりも、ノウハウには長けていると自負しております。