着物や帯がカビだらけになっている場合の最適な対策方法
着物のお手入れを長年承っておりますが、一年を通してよくあるご相談に、「保管していた着物を出してみたら、カビだらけになっていた」というご相談があります。
カビは湿気が多く風通しの悪い場所を好んで発生するので、何年何十年とタンスや箱の中にしまいっぱなしにしてある着物は、カビにとって天国のような繁殖の環境になります。
先人の知恵として口伝されている、着物の「虫干し・陰干し」という習慣は、着物を風通ししてこの厄介なカビの発生を防ぐための知恵でもありました。
さらに、現代の家屋は密閉性が高く、戸や窓を開けなければ室内に風が通りにくいので、保管場所によっては全く外気が通らず湿気もこもったままになります。
そのような環境に何年も着物をしまったままにしておけば、着物にカビが生えるのはある意味当たり前のことではないかと思います。
そんな厄介な、着物に生えてしまったカビのシミですが、まず、最初に皆さんに知っておいていただきたいのは、着物に発生するカビには、病のように重症度の段階があるということです。
着物に出ているカビの第一段階
まず第1段階は、生地の表面にカビが発生している状態です。この第1段階では、カビは白く見える状態のことがほとんどで、大抵の場合はカビ落としとクリーニングにて、カビを除去することが出来ます。
ただし、表面的なカビであっても、カビ自体は生地に食い込んでいる状態ですので、クリーニングだけでは生地に食い込んでいるカビ菌を除去しきれない場合が多く、また、カビによる強い湿気臭さ(カビ臭)も残る場合がありますので、なをし屋では、カビの発生したお着物や帯については、クリーニングとカビ落としと同時に、遠赤外線によるカビ菌の除菌をおすすめしております。
この遠赤外線による除菌は、薬品を使う除菌ではないので、薬品の残留による着物や人体への悪影響の心配がなく、遠赤外線の効果でカビ菌を99%の確率で死滅させる効果があり、鼻をつくようなカビ臭の軽減に非常に効果が高いので、カビの発生してしまったお着物や帯には、クリーニング・カビ落とし・遠赤外線による除菌を行うご提案をさせていただいております。
(着物の縫製を解いて反物の状態にして洗い張り(水洗い)をするのもカビにはかなり効果的なのですが、お仕立て直しが必要になりますし、金彩や刺繍がある着物は水洗いが出来ない場合も多いので、まずはこの遠赤外線による除菌をご提案しております)
また、帯については、表面的なカビよりも、中にはいっている綿の帯芯にカビが生えていることが多く、表は綺麗でも強烈なカビ臭がする帯は、ほぼ間違いなく中の帯芯がカビている状態になっています。
このようになっている場合、帯芯は新しい物に替えるのが原則なのですが、帯芯を替えずにカビ菌とカビ臭を取りたいという場合は、クリーニングと遠赤外線による除菌を行って、カビとカビ臭を除去します。
遠赤外線によるカビ臭の軽減についてですが、臭いの感じ方は個人差が大きいので、私が何も感じないくらいに軽減しても、ご本人様はまだ感じられるという場合があります。
ですので、カビ臭の軽減については、かなりの改善はお約束出来るのですが、完全な除去という表現は控えさせていただいております。
着物に出ているカビの第二段階
第2段階は、カビが生地の表面に発生していた第1段階よりもさらに進行し、シミとなってしまい、着物の地色が変色・脱色を起こしている状態です。この状態には3種類あり、一つ目が、カビの部分が脱色または薄く変色している状態です。この場合、地色の色合いや濃さなどによって修復の可否が決まりますが、一例を挙げると、青系の色目は修復が困難な場合があります。
今までの承りの事例ですと、画像のような黒留袖や黒紋付に、カビによるシミはよく出ているように思います(黒地なのでカビが見えやすいというのもあると思います)
脱色した部分には、染色補正(色修正)で元の色に戻すのですが、直せる色目であっても、あまりにも全体的で数が多い場合は、時間がかかりすぎるため、修復が難しくなります。
その場合は、お仕立てを解いての染め直しなどをご提案させていただくことがございます。
また、泥大島紬の場合、変色・脱色を起こすと、ほとんどの場合は染色が普通の染料ではなく特殊な染色のため、元に戻すことが非常に困難になります。
染料ではない特殊な染色液で誤魔化す場合もありますが、全体的にその修正を行うと違和感が残りやすいので、小さな脱色や数の少ない場合にのみ行う加工になります。
二つ目の状態は、カビによって生地が黄変(変色)を起こしている状態です。
この場合も、一つ目の状態と同じように、着物の地色の色合いや染色の濃さなどによって修復後の仕上がり具合が決まりますが、地色が薄い場合、黄変シミが極端に濃くなければ、染み抜きによって比較的綺麗に直せることが多いです。
三つ目は、カビによって地色が黒っぽく変色している状態です。いわゆる黒カビといわれる状態です。
このような状態の場合、染み抜きでだいたい気にならない状態に見栄え良く出来る場合もあるのですが、シミ自体が濃い物は、元通りに修復するのが困難な場合もございます。
着物のカビは丸洗い(クリーニング)で落ちるのか?
先にもお話しましたが、着物に発生したカビのお手入れについて、改めて分かりやすくお話させていただきます。
着物にカビが生えた場合はクリーニング(丸洗い)で落とせる、という話があった場合、半分正解で半分間違いという感じになります。
カビには段階があるというお話をさせていただきましたが、カビが白いカビであれば、丸洗いで見た目にはカビを落とすことは可能です。
ですが、カビというのは真菌類という微生物で、生地にしっかり根を張っていることも多いので、その場合は丸洗いで表面的なカビは除去出来ても、カビの根っこのようなものが残ってしまう場合もあります。
ですので、丸洗いでカビを落としただけの場合、そのような状態の着物をそのまましまうと、短期間でまたカビが生えてくる可能性が高くなります。
また、白いカビであっても、丸洗いだけでは落とす力に限界がありますので、丸洗い後にカビ落としの染み抜き作業が必要になる場合がほとんどです。
なをし屋では、白いカビが生えたお着物は丸洗い・カビ落としに加えてカビ菌を死滅させる遠赤外線による除菌を行いますので、理論上は今あるカビが再活動出来ないようにしてお返しいたしますので、お手入れ後にまた保管するお着物などには非常におすすめ出来るお手入れプランとなります。
丸洗いと遠赤外線によるカビのシミのお手入れは、着物の仕立てを解かずに作業を行う場合には最善の方法となりますが、出来れば仕立てを解いて解き洗い張りを行い、水洗いでカビも臭いもしっかり落としてさっぱりさせた状態にしてから仕立て直すのが一番効果的ではあります(ただし、仕立て直し代が必要になるため、マラ洗いでのお手入れプランよりも金額がかかります)
カビのシミの最上級のお手入れ方法としては、丸洗い・遠赤外線除菌・解き洗い張り・カビシミ落とし・お仕立て直しとなるかと思います。
カビが白いカビではなく、黄色い変色や染色の脱色を起こしている場合は、染み抜き作業と色修正作業が必要になりますので、シミが広範囲にある状態の場合、丸洗いだけではなくお仕立てを解いての洗い張りを併用するプランのご提案になる場合がございます。
カビには様々な状態と段階があるのですが、早期に発見してきちんとクリーニングと遠赤外線によるお手入れをすれば、最悪の事態を免れることが出来る可能性は高いと思います。
カビはそのまま放っておけばドンドン悪い状態へと進行しますので、もしもカビが出ているのを見つけたら、一刻も早くご相談をお願いいたします。
カビをお手入れした後の着物の保管
カビが生えた着物を適切にお手入れして綺麗になった後、保管方法はどのようにすれば良いのか?というご質問をいただくことが多いのですが、結論から言ってしまうと、最善の保管方法は、最低でも年に一回の虫干し・陰干しをして、保管場所と着物類に湿気がこもらないようにすること、になります。
とはいえ、着物を陰干しするのは中々に手間のかかる作業となりますし、広げてしまうとうまく畳めないという方も多いとお聞きしますので、最低限これだけはして欲しいという方法をお教えいたします。
それは、着物の保管場所(箪笥の引き出しなど)に専用の除湿シートを入れること、です。
着物用の除湿シートはいくつか売られていますので、好みのものを説明書通りに入れると良いでしょう。
タンクの中の水やジェルが漏れて着物を濡らす大惨事になることがありますので、くれぐれも、水が貯まるタイプやジェル状になるタイプの除湿剤は使わないようにしてください。