黒紋付(喪服)の着物の表面が着用後に白くなるのは何故か?
黒紋付という着物があります。喪服とも呼ばれますが、元々は喪の時だけではなくハレの日などにも着られていた、紋が五つ入った第一礼装で、今でも、あの超有名な歌劇の女学校では、袴と組み合わせた式服として卒業式に着る礼装となっています。
そんな黒紋付、黒っていうぐらいなので、色の種類は黒一色しかないんですが、一度着ただけでも衿とか帯を締めた部分などがなんとなく(時には激しく)白っぽくなってしまうことがあります。
せっかく誂えた着物が一度着ただけでそんな風になってしまっては、非常に困りますし、残念ですよね。
着物のお手入れを専門とする当店にも、黒紋付を着たら所々白くなってしまった、というお手入れの依頼が時々あります。
同じ黒で染めた着物でも、黒留袖はあまりそういうトラブルは起きません。
黒紋付(喪服)だけがなんでそうなってしまうのか、その原因をご存知ですか?
黒紋付(喪服)は、生地に特殊な加工が施してある
黒紋付(喪服)の着物は、絹に適した酸性染料という染料で真っ黒に染めてるんですが、黒の染料というのは、それだけではなかなか深みのある黒になりにくいんですね(染めの手間を掛ければ、ならないわけではありません)
でも、黒紋付(喪服)の着物は、柄のある黒留袖と違って、紋を入れた部分以外には無地の黒い部分しかないので、黒さというか、黒の深さのような色合いが重要視されているようです。
で、黒紋付をより黒くする(見えるようにする)ために、黒紋付を染めるメーカーさんはどのようにしたか?
皆さんも経験がお有りかと思うんですが、黒に限らず、濃い地色に染まった布地が水に濡れた場合、濡れた部分はどのように見えますでしょうか?
元の色に比べて、その部分だけが濃く染まったような色に見えませんか?
その原理は、水に濡れたことによって光の反射率が変わり、色が濃く見える現象なんですが、実は、黒紋付の多く(全てではないです)は、生地に施す特殊な加工によって、擬似的に水に濡れているように見える状態を作っているんです。
着物の業界用語では、「深色加工(しんしょくかこう)」と呼ばれています。
その加工は、一種の液状の樹脂を生地全体にまんべんなく染み込ませて、乾かせて生地に定着させることによって、水に濡れたような状態を化学的・人工的にに作り出し、黒が深みを増したように錯覚する見えるようにしてます。
多くの黒紋付(喪服)の着物は、このような人為的に黒に錯覚する見える加工を行なっているので、着用時の摩擦などで生地に施された深色加工の樹脂が剥離を起こし、剥離をした部分だけ樹脂のない元の地色になってしまうので、白っぽく見える状態になってしまいます。
このような状態に一旦なってしまうと、軽度の白化した状態の物は、同じ深色加工の樹脂をかけて馴染ませることで何とかなる場合もありますが、重度の白化した状態の物は、樹脂の再定着などを繰り返して手をかけても、あまり綺麗に直せない場合が多いです。
最近は黒紋付自体があまり流通していないようですし、この加工方法も何かに違反しているわけでもないので、仕方がないことと言ってしまえばそれまでなんですが、こんな粗悪な問題がないとは言えないものを作って流通させてしまうのは、消費者保護の目線で見れば、やはりちょっとどうか?とも思いますね。
喪服(黒紋付)が白くなるのを防ぐには?
深色加工をしてある喪服が白くなるのを防ぐには、とにかく摩擦しないようにして着るしかないんです。
けど、そんなの無理な話ですよね…
帯を締めれば締めた部分が摩擦しますし、衿の部分も首筋と摩擦しますし…
しっかりと黒染めして深色加工してないものは、このような心配はないんですが。
黒紋付(喪服)、取り扱いにはくれぐれもご注意くださればと思います。